第2章大石内蔵助 「松の廊下」の真相とは⑥

 ところが、桂昌院の昇進問題にはなかなか結論が出ない。それで上野介は、かなり機嫌を悪くしていたようです。そこへもってきて、さらに彼の機嫌を損(そこ)ねる出来事がありました。饗応役の浅野長矩が、指南役の上野介に礼金を持ってこなかったのです。

 饗応役に選ばれた者が、あらかじめ指南役に礼金を届けておくのが、当時のしきたり。浅野長矩も十七歳で初めて饗応役を務めたときには、きちんとそれをやっていました。ところが今回は前回とくらべものにならないぐらい物価が上がっていたため、家老たちはいくら包めばいいのか分からない。そこで長矩に金額を相談したのですが、長矩はそのとき体の具合がことさら悪く、そんなことを考える余裕がありませんでした。そのため、

 「吉良殿へのお礼は、お役目が済んでからでよい。挨拶だけしておけ」

 と言って、お金を持たさずに家老を吉良のところへ行かせたのです。


【コメント】

では、この続きは来週金曜日に更新いたします。