あまりの豹変ぶりにうろたえた斎藤家の家老が、
「恐れ入ります。こちらが私どもの主、山城守(やましろのかみ)でござりまする」
と道三を紹介すると、信長はかすかに家老のほうへ首を回して、
「で、あるか」と一言。
とても二十歳とは思えぬ態度です。さらに信長は一分の隙(すき)もない所作(しょさ)でぴたりと正座をすると、道三に向かって挨拶を始めました。
「初めて御意(ぎょい)を致す。織田上総介(おだかずさのすけ)信長でござる。未熟者でござるが、何とぞ今後ともよろしくお引き回しのほどをお願い申し上げる」
行列での異様な恰好(かっこう)を見て油断していた道三は、あまりに堂々とした信長の物腰に、すっかり圧倒されてしまったそうです。
実は、信秀の死後、道三は再び尾張征服の野心を燃やしていました。しかし跡目を継いだ男に会ってみて、そのむずかしさを悟ったのでしょう。しばし歓談した後に帰っていく信長の後ろ姿を見送りながら、
「さすが見事よ、尾張の大うつけ。いずれ我が息子たちが、奴の門前に駒(こま)をつなぐことになるだろう。凄い男じゃ」
と、やがて斎藤家が信長に倒されることを予想したといいます。
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