会見場所は、尾張と美濃の国境付通にある正徳寺(しょうとくじ)。顔を合わせる前に婿の様子を見ておこうと思った道三は、約束の時間よりも早く出かけて、町外れの小屋に隠れていました。そこに、信長一行が行列を作ってやって来る。弓や鉄砲、長槍などをたずさえた、八百騎余りの軍勢です。
「なるほど、立派なものじゃな」
思っていた以上に堂々とした信長軍の様子に感心していた道三は、やがて行列の中に異様な風体(ふうてい)の男を見つけて腰を抜かしそうになりました。茶筅(ちゃせん)髪(先を毛羽(けば)立てて茶筅の形に結(ゆ)った髪形)を立てた男が、虎(とら)と豹(ひょう)の皮を縫い合わせた袴(はかま)を穿(は)き、腰には瓢箪(ひょうたん)を七つも八つもぶら下げて、酒を飲みながら馬に乗っていたのです。
「奇矯(ききょう)な男と噂には聞いていたが、こりや、とんでもない奴が来おったわい」
道三は半(なか)ば呆(あき)れ果て、半ば感心しながら正徳寺の本堂へ向かい、屏風(びょうぶ)で囲いをして信長が現われるのを待ちました。「相手があんな恰好(かっこう)で来るのなら」と、あまり威儀も正さずにのんびり構えていたそうです。
間もなく、信長が本堂にやって来ました。道三は、皮肉の一つも言ってやろうと思っていたに違いありません。ところが屛風を開け放して婿の前に出ると、またびっくり。信長は、さっきまでの姿とは見違えるような実に上品な正装に着替えていたのです。髪も美しい折り髷(まげ)に結い直し、威厳に満ちた態度でしずしずと入ってくる。その表情も、落ち着き払ったものでした。呆気(あっけ)にとられている道三を前にして、信長のほうは眉ひとつ動かさず、まるで空気でも見ているような顔をしていたといいます。
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