第3章・勝海舟 「江戸総攻撃を食い止めた捨て身の作戦」⑥

 「お前さんたちにお願いしたいのは、薩長の連中がこの江戸へ乗り込んできたとき、俺が声をかけたら火をつけて逃げてくれ。この金はそのためのもんだ。二百八十年続いた江戸の街を焼くという俺たちの決死の覚悟を西郷が分かったら、事はおさまるよ。そんときゃあ、いま渡した金をみんなで分けておくれ。頼んだぜ」

 そして三月十四日、再び勝は西郷に会いました。もちろん、焦土作戦のことを話して手の内を明かすようなことはいたしません。

 「西郷さん。腹は決まりましたか。百五十万人もの人々が暮らす江戸の街を焼きますかい」

 西郷隆盛が江戸の焦土作戦を知っていたかどうかは分かりません。しかし、この幕府代表者の目を見て、その心底にある覚悟のほどを悟ったのでしょう。

 「勝先生、分かり申した」

 江戸の街から引き揚げていく官軍の様子を眺めながら、海舟は心の中では泣いたでしょうね。公式の江戸城引き渡しは四月十日でしたが、自身は出席しなかったと言います。


【コメント】

カッコいいですねー。
まだ、勝さんと西郷さんの話は続きます。

来週金曜日に更新いたします!