このように、勝と西郷のあいだには、肚(はら)の据(す)わった大人物同士ならではの以心伝心(いしんでんしん)がありました。相手の考えていることは分かる。そういう無言のやりとりは、実は後年、西南戦争のときにもありました。岩倉具視(いわくらともみ)が、政府に反旗を翻(ひるがえ)して挙兵した西郷隆盛を説得するよう、勝に頼んだときの話です。
「岩倉さん、分かりました。私が行けば西郷さんは聞いてくれます。いまさら戦争でもないでしょうから、行きます。ただし、私の要求をそちらさんが聞いてくれたらの話ですがね」
と条件をつけました。その条件とは、
「あなた、そして木戸孝允(きどたかよし)と大久保利通(おおくぼとしみち)の御三方を免職してくれれば、私は喜んで鹿児島へ行きましょう」
それを聞いて、岩倉具視は「そこを曲げて何とか」と頼んだのですが、これには勝も首を縦には振りませんでした。
「岩倉さん、致し方ござんせんね」
これが勝の返事です。
【コメント】
またまたカッコいい! ですね。
ではまた、来週金曜日に更新いたします。
明日土曜日は、週1のBSNラジオ朗読番組「三波春夫」でお楽しみください。
Radikoで1週間、お聞きになれます。