第3章・勝海舟 「恨みを残さず、徳を残せ」①

 このように、勝と西郷のあいだには、肚(はら)の据(す)わった大人物同士ならではの以心伝心(いしんでんしん)がありました。相手の考えていることは分かる。そういう無言のやりとりは、実は後年、西南戦争のときにもありました。岩倉具視(いわくらともみ)が、政府に反旗を翻(ひるがえ)して挙兵した西郷隆盛を説得するよう、勝に頼んだときの話です。

 「岩倉さん、分かりました。私が行けば西郷さんは聞いてくれます。いまさら戦争でもないでしょうから、行きます。ただし、私の要求をそちらさんが聞いてくれたらの話ですがね」

と条件をつけました。その条件とは、

 「あなた、そして木戸孝允(きどたかよし)と大久保利通(おおくぼとしみち)の御三方を免職してくれれば、私は喜んで鹿児島へ行きましょう」

 それを聞いて、岩倉具視は「そこを曲げて何とか」と頼んだのですが、これには勝も首を縦には振りませんでした。

「岩倉さん、致し方ござんせんね」

 これが勝の返事です。


【コメント】

またまたカッコいい! ですね。
ではまた、来週金曜日に更新いたします。

明日土曜日は、週1のBSNラジオ朗読番組「三波春夫」でお楽しみください。
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