第1章高田屋嘉兵衛 言葉を越え、伝わる心③

 しかし私には、これが偶然だったとはどうしても思えません。紛争解決に尽力しようと決意した嘉兵衛さんは、自らロシアに囚(とら)われる道を選んだのではないでしょうか。虎穴(こけつ)に入らずんば虎児(こじ)を得ず。そう考えれば、そのとき観世丸が食糧や武具を大量に積んでいたことも納得がいきます。

 拿捕されたときの嘉兵衛さんの態度も、それを裏付けているように思えます。侍の正装に身を包んだ嘉兵衛さんは、背筋を伸ばして少しも動じる様子がなかったそうです。観世丸の船員の中には慌てて海に飛び込んで命を落とした人もいましたが、嘉兵衛さんはこれを一喝、

 「慌てるな、逃げてはいけない!持ち場を離れるな。わしがロシアの艦長と交渉してくるから、静かに待っていろ!」


【コメント】

本日が今年最後の更新でございました。
1年間ご愛読いただきまして、まことにありがとうございました。
次回は1月8日に更新いたします。

どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。