第1章高田屋嘉兵衛 これぞ嘉兵衛の真骨頂④

 晩年、故郷に帰った嘉兵衛さんは、そこに北前船の入港できる大きな港を作りました。後に地元の人々が「高田屋港」と名付けた港です。ただし、そのときかかった千五百両の費用のうち、嘉兵衛さんは千両だけ寄付しました。むろん、全額出そうと思えば出せたはず。それでも一部を地元の人々に負担させたのは、自分がすべてお金を出したのでは意味がない、と考えたからです。

 地元の人々のあいだに、「自分たちの力で新しいものを作ろう」という気持ちが芽生(めば)えなければ、たとえ港を作っても将来の発展がない。そう考えたからこそ、嘉兵衛さんは寄付を千両にとどめておきました。ここが嘉兵衛の真骨頂(しんこつちょう)です。

 いまの政治家は地元に利権を誘導することが最良と考えているようですが、それが人々の真の活力につながっている例はどれだけあるでしょう。そういう意味でも、「相手を生かす」ことを常に考えていた高田屋嘉兵衛の生き方を、私たちは改めて学ぶ必要があるのではないでしょうか。


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本日で、「高田屋嘉兵衛」の章はおしまいです。
次回からは、「大石内蔵助」です。
また来週金曜日に更新いたします。