第1章高田屋嘉兵衛 言葉を越え、伝わる心⑨

 もっとも、いくら大声で叫んだところで、嘉兵衛さんの命令は全部日本語ですから、本来なら、ロシア人の水兵に通じるはずがない。ところが不思議なことに、嘉兵衛さんの指示どおりにロシア人が動きました。気合いで理解させたとしかいいようがありません。これはやはり超人のなせる業(わざ)。

 こうして船を救った嘉兵衛さんは、ロシアの水兵たちから大いに尊敬されることとなりました。それ以降、リコルドを含めて全員が嘉兵衛さんのことを「タイショウ(大将)」と呼ぶようになっています。思えばここで嘉兵衛さんが信頼を得ていなかったら、その後の交渉がどうなったか分かりません。そもそも船が難破していたら、交渉自体が成り立たない。すべては嘉兵衛さんの航海術があったればこその話なのです。


【コメント】

「タイショウ」、いいですね。
素晴らしい嘉兵衛さんのお話はまだ続きます。
また来週、金曜日に更新いたします。