第1章高田屋嘉兵衛 「浪曲上等兵」の終戦②

 激戦が五日目を迎えたとき、めずらしく白い握り飯が配られました。とっておきの白米です。その意味を全員がかみしめていました。これがこの世の食い納め。そう思ったら、食べている間は戦場の雑音が一切消えて、無心です。心の中が研ぎ澄まされたようになりました。力が湧いてきて、いつ死んでもいい、最後まで全力で戦うだけだ、と思えたのです。

 戦闘再開。トーチカの上で敵を見張っていた私は、火炎放射器を持ったソ連兵を二人発見しました。身を隠すのにちょうどよさそうな草むらに小銃の照準を合わせて待ち構えていると、果たして二人はそこへ体を伏せる。「よし!」。引き金を引くと、敵の一人はその場で逆立ちして息絶えました。もう一人は武器を放り出して逃げていく。それを追ってさらに小銃を撃っていた私の耳に、下から味方の声が届きました。

 「北詰(きたづめ)(私の本名)、危ない!飛行機だ!」

 空を見上げると、ソ連の複葉機から炭団(たどん)のようにまん丸い爆弾が落ちてきます。下から丸く見えるということは、言うまでもなく、こちらに向かってくる直撃弾。それを見た瞬間に、もう私は人事不省になっていました。


【コメント】

戦場の話は次回も続きます。
また来週、金曜日に更新いたします。