第1章高田屋嘉兵衛 捕虜となったロシア艦長③

 リコルドが「しまった!」と地団駄(じだんだ)踏んでも、もう遅い。水兵たちは「艦長がやられた!」と怒り心頭、陸に向かって大砲を撃ち始め、さらには上陸してゴロヴニンを助けようと支度を始める。しかしリコルドはこれに待ったをかけました。こんな罠を仕掛けたからは、国後では腕の立つ連中が手ぐすね引いて待っているはず。陸での戦い方を知らない水兵が向かっていっても敵(かな)わない。ここは一つ、落ち着いて様子を見たほうがいい。リコルド腹をくくりました。

 やがて陸のほうから、綱のついた桶(おけ)が流れて来ました。それと悟ってリコルドは肌着などの日用品と一緒に、ゴロヴニン宛ての手紙を入れて桶に入れたのです。その手紙の内容が、実に冷静で立派なもの。

 「ひとまず私はオホーツク港へ帰り、艦隊を組んで救助に来るつもりです。どうかそれまで辛抱(しんぼう)してください。ただ、もし日本の官憲が返書を許したならば、今後の行動について艦長のご指示が得られれば幸いです」

 日本の官憲が許したならば、というあたり、リコルドがきちんと国際儀礼をわきまえた人物だったことがうかがえます。すでに艦長は敵の捕虜になっているわけで、こうなったからには慌(あわ)てず騒がず正規の外交ルールに則(のっと)って冷静に事を進めるよりしょうがないというリコルドの覚悟が、この文面から読み取れるのです。


【コメント】

次回は、三波春夫の戦争体験の話となります。
来週金曜日に更新いたします!