第1章高田屋嘉兵衛 これぞ嘉兵衛の真骨頂②

 嘉兵衛さんの人間愛が光って見えるのは、リコルドの部下だったルダコフというロシア軍の中尉にかけた言葉でした。ルダコフは才能豊かな軍人なのに、自分の境遇にいつも不平不満を洩(も)らしていました。もう大尉になってもおかしくない時期なのに、なかなか昇進させてもらえないからです。そこで嘉兵衛さん、こんなふうに諭(さと)しました。

 「ルダコフさん、ちょっと聞いてください。あなたは才能ある立派な軍人だけれども、あなたには険(けん)があっていけない。人に対する情け心がありません。大尉昇進よりも、まず部下をかわいがることです。自分の心の角(かど)を取って、部下から慕(した)われるような上官になれば、きっとそれを上のお方も見てくれるはずです」

 囚われの身でありながら、なんという情け深さなんでしょう。身振り手振りで一所懸命に語る嘉兵衛さんの心情はルダコフに伝わりました。異国の囚われ人なのに、私に忠告をしてくれるとは素晴らしい人だ、とルダコフは涙を流しました。


【コメント】

“自分の心の角を取る”。
これは、三波春夫がつとめて心掛けていたことでもあったかと思います。
良い歌を歌う、良い藝を行うには、いら立っていたりする等はもってのほか。平らな心で舞台に立つことを鉄則としていました。
嫌なことが起こっても、それに反応してこだわってしまう心を持たず、また、自分の心も角が立っていないように、と。
マネしたいところです…。

ではまた、来週金曜日に更新いたします。