「ロシアとの戦争には大変な費用がかかります。何とかご協力願えないでしょうか」
そう持ちかけると、渋沢は、
「はっきりと申しますが、この戦争はダメですよ。協力なんて、とんでもない」
と、はじめは冷たい態度でした。しかし、一度断わられたぐらいて諦(あきら)める児玉源太郎ではありません。日を改めて、もう一度、訪ねました。よほど鬼気(きき)迫る表情をしていたのでしょう。その顔を見た渋沢は、
「戦争の見通しはどうなんですか」
と今度は心配そうに尋ねたそうです。
「負けるかもしれません」
児玉さんは本心を言いました。
「勝敗は四分六です。講和の時が大切で、アメリカ大統領に仲介を頼みに行きましたが、しかし、ここで戦っておかなければ、中国も朝鮮もロシアに併合されて、いずれ日本も植民地となってしまうでしょう。ここは何としても、やらねばならないのです」
そう訴える児玉さんの両眼から、涙がはらはらとこぼれ落ちました。それを見た渋沢は大きく頷(うなず)き、
「児玉さん、分かりました。国家の運命は、われわれにとっても大事な問題です。一致団結で協力しましょう」
答える渋谷も涙を拭(ぬぐ)っていました。渋沢は、日本郵船社長の近藤廉平(こんどうれんぺい)を説得し、財界が戦争に大きく出資することになりました。児玉の誠意と情熱が、彼らを動かしたのです。
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